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「増員はクライアントのため」とは?

2010.06.01

 

 鈴木寛文部科学副大臣が週間東洋経済5月22日付け特集『弁護士超活用法』の中で「「すでに供給過剰。就職できない弁護士も生じている」との主張があるが、完全雇用とは3%の失業率がある状態を指すのは経済学の常識。需要より供給が若干多いのは健全なことで、選択肢が広がることによるクライアント側のメリットは大きい。増員は「弁護士のため」ではなく、「クライアントのため」であることを再確認したい。」と述べています。
 
 この副大臣の言葉には耳を疑います。
 
 まず、弁護士の供給は「需要より」「若干多い」などといった生易しい状況ではありません。
 現在、新63期の修習生で就職先が決まっているのは、3割~4割で、統計の出ている2008年度の一括登録日に弁護士登録をしなかった、或は、できなかった人は、2000人中120人程度と12%に上ります。この120人には、就職先が見つからず自分で独立開業する道を選択した即時独立弁護士の数は含まれていません。従って、就職先がなかった人は、実際には12%を上回るのです。
 その上、事件数は年々減少する一方です。過払返還事件もなくなります。
 少子高齢化社会で、経済は停滞し、ますます法曹への需要は減少していきます。
 これまでは無理をして採用していた法律事務所も飽和状態になりつつあります。
 そのため、今後、弁護士の需給バランスは、加速的に悪化の一途を辿ります。
 鈴木副大臣の発言は、現状を全く反映していませんが、将来的にも、この発言と実情は益々激しく乖離していくことが予想されます。

 次に、鈴木副大臣の後半の発言部分である、弁護士の数が増えることによりクライアントの選択肢が増え、「クライアント側のメリットが大きい」というのも間違っています。
 人数を増やせば当然合格水準を下げざるを得ません。その分教育を厚くしなければならないのに、司法試験合格後の修習生の修習期間を半分にしました。さらに、あまりの人数の多さに修習の中身も手薄になっています。
 他方、修習生の方も就職活動に東奔西走せねばならず、精神的にも追い詰められるわけですから修習に身が入るはずがありません。
 その上、さらに、弁護士として一人前になるにあたり、最も重要なイソ弁としての訓練(就職先)もなく多額の借金を背負ったまま世の中に放り出されるのです。
 最高裁判所が修習生のレベルの低さを公表するといった異例の事態に発展しましたが、合格者を無理矢理急激に増やした制度の構造上、質が下がらないはずがないのです。

 鈴木副大臣は、安全性に問題がある欠陥商品を粗製乱造させて、消費者の身体・生命を害されても、消費者の選択肢が広がった結果として喜ぶべきだとでも言われるのでしょうか。パロマガス事故の遺族に向かい一体何と申し上げるのでしょうか。
 
 弁護士の仕事は、人の人生に一度あるかないかという法的トラブルを解決する職業で、一歩間違えば、人権を救うどころか弁護士自身が人権侵害をする危険さえある非常に危ない職業です。濫用・誤用により引き換えとなるのは人の人生なのです。

 鈴木副大臣の発言は「誰にでも医師としての資格を与え、さしたる訓練をさせることなくメスを握らせることがクライアントのメリット」と発言するのと同じことです。
 その意味では、一般の失業率と同様に考えるわけにはいかないのです。

 ところが、鈴木副大臣の発言は、この観点が決定的に欠落しています。

 繰り返しますが、弁護士の粗製乱造は、クライアントに「メリット」どころか、大きなデメリットをもたらしかねないのです。 

 もう少し人権に対する配慮した発言をされなければ、発言者の人格と資質が疑われると思うのですが、いかがでしょうか。

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