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弁護士と懲戒制度

2011.08.13

 

 先日、マスコミの方と法曹人口問題についてお話をしていたところ、そのマスコミ(新聞記者)が「私はこうして直接話しをするので、武本さんが自分の利益のために活動をしているわけではないことはよくわかっています。でも、一般のマスコミや市民は違います。弁護士が『弁護士の数を減らせ』ということだけを言うと自分の既得権益を守るための発言と誤解されてしまいます。例えば、『数を減らせ』ということと同時に『懲戒制度を厳しく運用して弁護士の質を担保します。』という自分の身を切るようなことをセットで言われたらどうですか。」とのご意見を頂戴しました。

 このような議論は、巷でもよく見る意見です。
 
 確かに、上記懲戒の運用を厳しくして弁護士の質の担保を図るということを言えば、『ウケ』は良いかもしれません。

 しかし、とても『懲戒制度を厳しくして悪い弁護士を淘汰させます。』ということをセットで言うことはできません。

 懲戒制度には、2つの問題があります。

 一つは、懲戒制度を厳しくしたからとして、悪い弁護士が淘汰されるとは限らないということです。
 弁護士と依頼者との間でどのようなアドバイスや打ち合わせが行われたかは、密室の中のことで立証できないという問題もありますが、それだけではありません。
 弁護士のアドバイスや法的見解ややり方が間違っているかどうかを、一般市民が判断するのは大変難しいということです。裁判手続きは非常に専門的で一般常識で判断することは出来ません。世間でいう「常識」と裁判の「常識」が違うことはよくあることです。
 そのために、実際に懲戒申立てをされた事案が『的外れ』であることも多く、本来、(弁護士から見て)懲戒にかけられなければならない弁護士がむしろ見過ごされる場合も多いと思います。
 懲戒制度は、その意味で、悪い弁護士を淘汰する制度として必ずしも機能するわけではありません。

 しかしながら、この問題は、実は大した問題ではありません。

 もっと大きな問題、それは、懲戒制度がはらむ乱用の危険です。

 弁護士の懲戒制度が乱用されれば、弁護士の自治、すなわち司法自体の機能が危険に曝されかねないという問題の方が大きな問題だと思います。

 例えば、「事件の相手方から懲戒を申し立てられることは弁護士の勲章」と弁護士の間ではよく言われることですが、公権力や大企業に対峙する弁護士が安易に懲戒にかけられるとしたら、弁護士が「多数決からこぼれ落ちた人権を擁護し、社会正義を実現するとの弁護士の機能」を果たすことが出来るでしょうか。

 前回の日弁連の会長選挙で、反執行部の強力な候補者が選挙直前に懲戒にかけられ、会長選挙に立候補できなかったことが弁護士の間でも取りざたされました。これが、噂通り政治的懲戒だったとすれば、今現時点でも、懲戒制度がきわめて政治的に運用されているとさえ言えるでしょう。

 実際、橋下知事の懲戒呼びかけの最高裁判例等を見るにつけ、懲戒制度が今後も政治的に使われる危険は多分にあると思います。

 弁護士が懲戒の危機に安易に曝されるとすれば、弁護士が公権力、大企業或いは世論に対峙して自由な活動ができなくなり、弁護士自治ひいては司法の独立自体に支障をきたしてしまうのではないかと思うのは、単なる杞憂ではないのです。
 
  「弁護士を激増させて自由競争をさせ、悪い弁護士は懲戒で淘汰すればよい」との議論は、弁護士制度、司法制度を崩壊させる意見としては成り立ち得るのですが、そうでない方面からみれば、いかにも暴論と言えるのです。

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