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ある法科大学院の教授の話

2016.04.09

 

 先日、法科大学院を修了し、新司法試験を経て弁護士になった60期代の若手弁護士と話をする機会がありました。
  
 そのうちの1人は、2年目から法科大学院の学費等を免除してもらい、1年目の授業料と入学金等を借りるだけで済んだそうなのですが、それでも毎月6万円の返済をしているとのことでした。その方は、来年から司法修習生時代の(国からの)貸与金返済が始まり、更に返済額が上がることを嘆いておられました。

 若手弁護士らは、一様に「司法改革を進めた時は、法曹への需要がいくらでもあると言っていたけど、一体全体どこに需要があるんですか。法曹に対する需要はどこにもないですよ。」「法曹需要があるのが本当なら司法改革を進めた弁護士が毎年10人ずつくらい若手弁護士を雇うはずでしょう。でも、実際には雇っていないのだから皆法曹需要などないのがわかっているのに進めたんでしょう。」「上の人たちが早くに引退してくれたらまだしも、顧問先等を多数持っている先輩弁護士たちに限って引退しようとしない。」等々言っておられました。

 いずれのご意見も至極ごもっともなご意見です。

 その若手弁護士の話の中で最も興味深いかったは、その人が法科大学院に入学して初めて受けた授業で教授が言った発言です。

 その法科大学院の教授は、「司法試験に受かり、弁護士になれば、何とか食べていけると思ったら大間違いである。」「司法試験に受かり、弁護士としてやっていけるには、合理的な思考ができる人でなければならない。」「法科大学院に入学している段階で、君たちは、合理的な思考ができていない。」「合理的な思考ができれば、法科大学院になど来ない。」「東大や京大の法科大学院に行っているのなら、まだ何とかなるかもしれないが、君たちは、そうではない。これからの進路にはかなりの覚悟と努力が必要である。」と言われたというのです。

 その若手弁護士は、辛辣な上記発言にかなりの衝撃を受けたようですが、その教授の話には合理性があると思い、納得しておられたようでした。

 法科大学院の教授の発言からわかることは、二つあると思います。

 1つは、法科大学院の教授でさえ、もはや弁護士が職業として成り立ちえないものになったことを認識していること、2つ目は、今や、法曹界が学歴社会となってしまい、多様な人材の給源という法科大学院のスローガンが完全に破綻しているということです。
 
 以前は、高校を出ていなくても、大学を卒業していなくても、いかなる大学を出ていたとしても、司法試験に受かれば何とかなるという「敗者復活」としての機能があったのに、今や、成績上位の大学を出て人脈がある、あるいは親が弁護士をしており顧問先が多数ある等既得権益を持った人でなければ、または、弁護士としての収入があまりなくても困ることがないくらいの経済的余裕がなければ、司法試験に合格したとしても、その後は茨の道が待っており、司法試験が格差社会助長としての機能を果たすに至ったようです。

 

 

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