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2010.06.21
6月20日付け毎日新聞のニュース争論で前連合会長の高木剛氏と日弁連会長の宇都宮健児氏が法曹人口についての論争を行っています(http://mainichi.jp/select/opinion/souron/news/20100620org00m070003000c.html)。
争論の中で高木氏は「日本の司法は」「世の中の問題を2割しか解決できない「2割司法」と言われた。経済活動のテンポの速さに対応するには、司法の容量が小さすぎ、訴訟に時間がかかりすぎた。」と仰っています。
しかし、高木氏のこの意見はきわめて不合理な意見です。
「2割司法」とのスローガンを喧伝したのは、この3000人路線を最初に言い出し、3000人路線を最も推進した中坊公平氏です。しかし、この「2割司法」に何らの根拠がないことは国会の答弁で(現最高裁判所長官)竹崎氏が答えておられます。事実この「2割司法」を裏付ける統計資料を見たことは一度としてありません。
「2割司法」には根拠がないのです。
また、世の中の問題で司法で解決すべき問題が2割であれば、「2割司法」というのは、司法が解決すべき問題のほとんどを司法が取り扱っていることになり、何ら問題ないことになります。
世の中の問題を全て司法で解決すべきと言うのであれば、法律で司法による解決を強制するように持っていくのが一番の近道です。しかし、世の中の問題を全て司法で解決することが良いこととは思えません。
例えば、銀行からお金を借りる時も、取引上の交渉も、子供同志の喧嘩も親戚とのいざこざも夫婦喧嘩も全て裁判所ないし弁護士が関与するように法律で強制されたとしたら、どうでしょうか?
実際、弁護士がこれだけ激増しても、法律相談件数や訴訟事件数が減り続けていることを見ると、「2割司法」がいかに眉唾であったかがお分かりいただけると思います。
また、「司法の容量が小さすぎ、訴訟に時間がかかりすぎた」との部分ですが、これは明らかに統計上誤った意見です。
日本の裁判は、諸外国と比較しても長くないのです。
最高裁が発表している平成13年の審理期間の比較では、日本の民事の平均審理期間は「8.5月」で、フランスが「8.9月」、イギリスは「37.7月」(日本の4倍)です。アメリカは8.7ヶ月で、アメリカと同じ方法で比較すると日本は、「3.7月」(アメリカの半分に満たない期間)になります。
また、刑事事件の審理期間を比較しても、日本は「3.3月」に過ぎません。イギリスも「3.3月」と同じですが、ドイツは「6.2月」と日本の倍の期間を要していました。
その後、平成15年にわが国では裁判の迅速法案が施行されるようになりましたので、現在の我が国の平均審理期間はさらに短くなっています。
司法制度改革審議会が議論している当時から、日本の裁判は諸外国に比べて短かったのです。
何故このような統計的に明らかに間違っている意見が未だにまかり通るのでしょうか。本当に信じられません。
このように司法制度の問題に長く携わっておられる方が客観的統計資料を知らずに発言したとは考えられません。
もし、本当に知らずに発言されたとしたら、あまりにも不誠実とのそしりを免れないでしょう。最高裁判所のホームページを少し調べれば誰でもわかることなのですから。もっと言えば、高木氏であれば司法制度改革審議会で「次回裁判期間の資料を出すように。」と一言命ずれば済む問題のはずでしょう。
実際、平成12年度に司法制度改革審議会の実施した市民アンケートでも弁護士が足りないとの統計資料は出なかったではありませんか(http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/tyousa/2001/survey-report.html)。
その統計を無視して客観的統計資料と全く矛盾する意見をばかり言われるのなら、わざわざ費用と人力を投じて統計をとった意味は一体何だったのでしょうか?
高木氏の意見はいずれも弁護士激増を裏付ける根拠たり得ません。
前提事実そのものが誤っているのですから。
世の中に影響を与える偉い方なのですから、もう少し誠実な議論をしてもらいたいと思います。
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