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2010.09.07
先週の土曜日にNHKで「追跡AtoZ:急増する弁護士トラブル」と題する番組が放映されました。
番組では、暴力団関係者が「お金さえ出せば、何も聞かずに手伝ってくれる」都合の良い弁護士の名刺を何枚も広げたり、弁護士を紹介した業者に弁護士報酬よりも多額の紹介料らしきお金を支払わされた被害者のインタビューや多額の過払金を回収しながら、3年間も依頼者に過払金の存在を説明せずに放置していた弁護士のインタビューにまで成功しており、かなり熱心な取材活動が行われていたことが伺われました。
ただ、このように弁護士トラブルが急増する原因に対する掘り下げは浅いように見えました。
番組の中では、このように弁護士トラブルが急増した原因について、①規制緩和、②司法試験合格者数の急増、③弁護士会の懲戒の甘さの3つを上げていました。
しかし、このように弁護士トラブルが急増した原因は、司法試験合格者数の急増のみにあります。
①について、番組は規制緩和により弁護士の広告が広く行われるようになった結果、弁護士トラブルが増えたとでも言いたかったのかもしれません。しかし、仮に広告規制が緩和されたとしても、弁護士数の急増等により仕事が激減するようなことがなければ、誰も好き好んで暴力団関係者や紹介業者と提携するといった危ない橋を渡る弁護士はいないでしょう。
また、③の弁護士会の懲戒制度の甘さということですが、弁護士会の懲戒制度はコンプライアンスに対する社会的風潮や弁護士に対する風当たりの強さ等から、以前と比較して厳しくなることはあっても、近年になり急激に甘くなったという事実はありません。世間と比べて、弁護士会の懲戒制度が甘いことを必ずしも否定するつもりはありませんが、③の懲戒制度の甘さにそれほど変化がない以上、近年の弁護士トラブルの急増の直接的な原因とはなりえないでしょう。
昔と今とで弁護士を取り巻く状況で最も異なる事象は、弁護士が増え過ぎたことにより、或は、社会的な不景気等により、過払金回収以外の仕事が激減しているからに他なりません。
需要を超えて弁護士数を激増させれば、弁護士による人権侵害等の社会的弊害が起こることは司法改悪に反対する我々が繰り返し、何年にもわたり訴えてきたことです。
なお、番組では、「以前1000人だった司法試験合格者数が倍になり、司法修習生の4分の1が就職先を見つけることができない」と言われていましたが、これも誤りです。
実際の司法試験合格者数は、以前500人だったのが4倍の2000人になりました。毎年の弁護士の増加数で言えば、以前は年間350人程度の増加に過ぎなかったのが、今では1800人の増加と約6倍の弁護士数を排出するようになりました。
また、司法修習生のうち就職先を見つけられない人は、アンケートに回答した司法修習生の約半数のうち43%の500人程度でした。2000人のうちの500人なので、4分の1が就職先が見つけられなかったとの報道されるのですが、アンケートに回答しなかった残りの1000人全員が就職先を見つけているとは通常考えられません。統計学上そのように推計することはあり得ないでしょう。
実際には、回答者の就職未定率43%が全体に及ぶと考えるのが普通で、従って、司法修習生の全体の人数の半分程度の1000人が未だ就職先が見つからないと見るべきでしょう。
マスコミには、統計のマジックを使って視聴者を騙すような手法を使わずに、客観的・中立な真実の報道に努めてもらいたいものです。