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2010.09.29
9月26日付の日本経済新聞の中外時評に「出だし順調な『容疑者に国選』~功を奏した弁護士の増員」という文章が掲載されています。執筆者は論説委員の安岡崇志という方だそうです。
確かに、弁護士の数を激増させる際、「被疑者国選の導入で大変なことになる。」というデマゴーグがまことしやかに流れされました。しかし、このようなデマに騙された人ばかりではありません。
被疑者国選は、そのほとんどが起訴されて被告人国選に移行します。すなわち、被疑者国選の事件と被告人国選の事件とは見事に重複するのです。
そして、これまでの「少ない」とされる弁護士の数で被告人国選(起訴後の刑事弁護)が十分に対応できていたわけですから、仮に被疑者国選が導入されても、被告人国選同様対応できるであろうということは、被疑者国選制度が導入される前から分かっていたことです。その証拠に、私も「法曹人口問題の一考察」の中で文章化していますが、他の多くの弁護士が同趣旨の発言を繰り返ししていました。
論説委員と言われる方は、何度言ってもお分かりにならないようですので、もう一度言います。
被疑者国選は弁護士人口を激増させなくても十分対応することができた問題なのです。
安岡論説委員は「論ずるよりも産むがやすし」と言われていますが、まさに噴飯ものです。
もともと過大な事件数を見積もり、「現在の弁護士の数では対応できない。だから激増させなければならない。」と大騒ぎをして無理矢理弁護士激増論の理由をねつ造しておきながら「実際にやってみたら対応できた。」等と平気な顔をして言われるのですから。
この論説委員自ら吐露しているように、被疑者国選の事件数のシミュレーションは9万件と実際の事件数と比較して2万件も過大に見積もっていました。どこの世界にこのような杜撰な見積もりをして許されるというのでしょうか。更に加えて言えば、前述したとおり、この7万件は、既にこれまでの少ない弁護士数で対応していた事件数であって、その事件について弁護士が取り組む時間が若干伸びたに過ぎません。
更に加えてこの論説委員は、「公共性が高く実入りが悪い仕事に取り組む弁護士はもっと多く必要になる。この期に及んでも経済的自立論をかざす弁護士はいるのだろうか。」とのたまわれます。
実際、今は、若手弁護士が先を争って国選事件を担当しています。これは、弁護士がワーキングプアー化しており、「実入り」の少ない事件であっても「収入がないよりはマシ。」と思っているからです。
ただ、このような状況は長くは続きません。なぜなら、このような公共性の強く実入りの少ない事件では経営や生活が成り立たないからです。そのため、このような事件に経営や生活を頼っている弁護士は、いずれ弁護士バッジを返上し、弁護士業から退場を余儀なくされるでしょう。
既に倫理的に問題ある弁護士の数は、弁護士数の急増以上に、激増しています。
先日の「追跡AtoZ]では、弁護士に対する苦情事件数が以前の6倍に急増していたことをマスコミ自ら報道していた通りです。
そして、司法改悪の結果、この先、更に経済的に追い詰められた弁護士が毎年大量に世の中に排出されます。
その時には、安岡論説委員は、どのような責任を取ってくれるというのでしょうか。