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2010.10.05
私も元「ボス弁」を相手に昨年の会長選挙に立候補せざるを得なくなったとき、運命の皮肉を感じたものですが、今最も運命の皮肉を感じているのは、大坪元特捜部長ら3人の検事なのではないでしょうか。
これまで何年も被疑者を取調べ、客観証拠を調査し、自供を引き出すなどして難事件を解決してきたエリート検事が3人も逮捕され、今度は、自分達が調べを受ける身になったのですから、これほどの運命の皮肉はないと思います。
報道によると、大坪元特捜部長は、弁護士の差し入れた「被疑者ノート」を見て「こんなものなんですか。」と感心し、自分の主張や取調べの過程を書き込んでいるそうです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101004/crm1010041220014-n1.htm
「被疑者ノート」とは、どのような取調べが行われたか、或は、その取調べで自分がどのような受け答えをしたかを被疑者の側で毎日記録するノートのことです(興味のある方は日弁連のホームページに書式がありますので、ご覧下さい。)
警察官や検察官の作る調書は、検察官や警察官が被疑者(被告人)の言い分を聞いた内容を警察官や検察官の側で文章化して、それを本人に読み聞かせて内容を確認することで作成されます。通常、被疑者は読み聞かせをされても興奮していますし、或は、疲れているので、後日冷静になって再度読み直してみると自分の言った内容(ニュアンス)とは違う調書が取られていることはしばしばあります。或は、取り調べられた内容が検察官側の不利な内容の場合に調書等が証拠として出てこなかったりすることもあります。でも、その都度記録していないと取調べを受けた本人自身も取り調べられた内容や回数を忘れていて気がつかないこともあります。
このような事態を避けるべく否認事件や重大事件の場合は必ずといってよいほど「被疑者ノート」を差し入れるのです。
また、佐賀元副部長は、弁護人を通じて取調べの可視化を求めているそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101004-OYT1T01021.htm
取調べは密室で行われます。そこで、無理な取調べを受け、自らの良心に従い否認していたのに、自白に転じさせられ無実の罪で何年も服役せざるを得なかった人は菅家さんだけではありません(戦前の話ではありません。現代の話です。)
そのため、弁護士会では、取調べを全面的に可視化(録画等)すべきことを主張しています。
日弁連からの取調べの全面可視化要求に対し、検察庁は拒否していますが、その検察官が被疑者になったら取り調べの可視化を求める上申書を出したというのですから、これまたなんとも皮肉なことです。
立場が逆になれば、意見を180度転換するというのは何ともしっくりきませんが、取調べの可視化の問題は、取調べを受ける側の手続保障をより重視するのか、多少の無理な取調べを容認しても真実の犯人を取り逃がすリスクをなくす方(真実発見)をより重視すべきかの問題でしょう。
刑事訴訟法の原則からすれば前者を重んじるべきということになるのでしょうが、日本人の正義感の強さからすれば後者を重んじるべきということになるのではないでしょうか。
取調べの可視化の問題は、裁判員制度等とは異なり、どちらにしても同じくらいのメリットデメリットがある問題だと私は思っています。