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2011.01.11
「司法試験合格者数を3000人よりも少ない数にするのは、憲法に定める『職業選択の自由』に反する意見である。」「基本的人権擁護を謳う弁護士が言うべきことではない。」との珍妙な意見があります。
仮に、この珍妙な意見が正当であると仮定して考えてみましょう。
もし、司法試験合格者数を1000人にするというのが「職業選択の自由」を定めた憲法に反するというのであれば、3000人といった人数制限を設けること自体が同様に『職業選択の自由』に反することになるのではないでしょうか。3000人なら許されるというのであれば、何故、3000人の方には合理性があるのに、1000人の方には合理性がないのでしょうか。
上記意見に従えば、国会議員・警察官なりたいという人に試験を施して人数を絞ることも『職業選択の自由』を定めた憲法に違反することになるのではないでしょうか。
「公務員の給料は税金の制約があるから人数を制限しなければならない」というのであれば、例えば、医師になりたいという人に医師国家試験を施して人数制限をすることも上記意見に従えば『職業選択の自由』に反して許されないということになるでしょう。上記意見によれば、「医師になりたい」という人がいれば、ある程度の教育を受けさえすれば、志願者全員を医師にしなければならないということになるはずです。
医師の場合は、弁護士とは異なり、特別というのであれば、『社会生活上の医師』であるべきとして、弁護士と医師を同等に扱った司法制度改革の理念自体も間違っていたというのでしょうか。
司法書士や税理士といった隣接士業についても同じことが当てはまりますが、資格試験である以上、一定の人数制限があるのは当たり前です。そして、その人数制限を何名とするのかは、『職業選択の自由』とは別の様々な政策的考慮から定められるものなのです。
少し考えれば、「司法試験合格者数の人数制限をすることが『職業選択の自由』を定めた憲法に反する。」との意見がいかに珍妙な議論であるか、誰でもおわかりになることでしょう。
弁護士には労働基準法の適用がなく、司法改悪により最近の新人弁護士は「ただ同然」の安給料で夜遅くまで或いは休日にも事務員代わりに加重労働を強いられており、人間としての最低限の生活レベルにも達していない人が多く存在しています。上記意見と同様に考えれば、これこそ憲法違反の重大な事態が発生していると思うのですが、それはおくとしても、司法試験合格者数の人数制限が憲法違反であるとの奇妙きてれつな意見を他ならぬ弁護士が堂々と公式の場で発言するのですから、開いた口がふさがりません。
私なら「もう一度司法試験を受験しろ」と言われるのではないかと恥ずかしくて恥ずかしくてとてもこのような奇異な意見を皆の前で口にすることはできません。
老婆心ながら、弁護士ともあろう者が、このような奇妙な意見を公の場で述べれば、顧問先や依頼者からの信頼までをも失うのではないかと、他人事ながら心配せずにはいられません。