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「日本最難関資格、弁護士の悲惨な現実」という記事(2)

2016.07.19

 

弁護士は、経済的合理性のない職業であるとの指摘をすると必ず言われることは、「弁護士の職業的魅力は、経済的なものだけではない。」「経済的合理性は乏しいが、私は弁護士が職業としてやりがいがあるからこそ目指したのだ。」といったご意見です。
 
平成28年3月11日に行われた日弁連臨時総会でも以下のような発言がありました。

「銭・金だけの問題だけを言われたら、私たちはこの世界に来なかっただろうと思います。」
「若手の就職難とか若手が借金苦になっているなど、若手弁護士がかわいそうという論調をよく聞きます。しかし、結局は、自身の所得の低下を避けたいから、すなわち、国民の権利を守るのではなく、自分の生活と権利を守るために弁護士を増やすなと言っているように私には聞こえます。」
 
 「弁護士の魅力は経済的なものだけではない」
 
それは全くその通りです。
弁護士の魅力がむしろ経済以外の部分にあることは、私自身弁護士業務を遂行する上で、或いは、様々な種類の公益的活動を行う中で身に染みて感じています。

 「経済的合理性は乏しくても、弁護士としてのやりがいがあるから弁護士になった。」
 この点もその通りでしょう。弁護士を目指す理由は人様々であり、経済的合理性が乏しくとも弁護士が基本的人権を擁護し、社会正義を実現する職業であるからこそ弁護士を目指すといった人が多数を占めることもまた事実でしょう。
 
しかし、これら発言には少なくとも問題が2つあると思います。
 
 1つは、「弁護士の経済的合理性が乏しい」の程度に認識の違いがあるのではないかということです。
 すなわち、弁護士の経済的合理性の欠落が、生活保護レベルを通り越して、赤字経営に転落し、それが継続した場合でも皆が弁護士を目指すと言えのるかという問題です。
 我々が「弁護士という職業には経済的合理性が乏しい」と言う場合、弁護士が儲けられるか否かを問題にしているわけではありません。我々が経済的合理性の乏しさについて発言する時に念頭に置いているのは、弁護士という職業が永続的に赤字経営を余儀なくされる場合に、それでも多数の人が弁護士を目指せるか否かということなのです。
 その答えはノーでしょう。一部の奇特な方を除いて、赤字経営が続くような職業なのに弁護士を目指す、弁護士をし続ける人はほとんどいないと思います。
 
 2つ目は、弁護士業が継続的に赤字経営となる職業になったとして、「自分が」それでも弁護士を目指せるからといって、赤字経営の職業を後輩の学生や友達に勧められるか否かという問題です。
 「弁護士の魅力は経済的なものだけではない。自分は弁護士の経済的魅力故に目指したのではなく、髙い理想に燃えて弁護士になったのだ。」と公言できる方は、おそらく赤字経営が継続的に続いたとしても弁護士を続けていける方なのでしょう。

  しかし、我々は司法制度の問題を言っているのです。

  赤字経営が続いても弁護士をやり続けることのできるスーパーマンを念頭に置いて、そのような人の善意を頼りに制度設計をしたのでは、制度が破たんすることは目に見えています。
  現実に、法科大学院志願者、入学者、司法試験受験者数は、激減しています。 
  実際、国税庁の申告所得額によれば、年間所得100万円以下の弁護士の割合は年々増加しており、平成26年には弁護士は約36%に上ります。
  
弁護士の事務所経営の赤字が続いたとしても、弁護士になるまでに法科大学院の学費・生活費等々大学卒業後に多額の投下資本が必要になったとしても、弁護士を目指すことのできるスーパーマンを念頭においた制度設計をしているからこそ、これほどまでに短期間で制度が破たんし始めているのです。

  弁護士の職業的魅力を説くのもよいですが、まずは、弁護士を適正人口にすることが先決だと思うのですが、いかがでしょうか。

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