最新情報詳細 一覧へ

< 一覧へ

札幌公聴会の応援演説(岩田圭只弁護士)(2)

2024.01.20

 

岩田圭只弁護士による応援演説(2)

「また、司法試験の合格者数が増えて何が起こったでしょうか。
弁護士を増やさないと地方会にも弁護士が入らないなどと言われることがあります。確かに、弁護士人口自体は毎年増えて行っているんですが、うちの会にもよその会にも必ずしも継続的に弁護士が入ってくれているわけではありません。公設事務所の後任を探すにも苦労しているという実情もあります。
法曹人口増加の成果があるとすれば、インハウスが大幅に増えた程度のようにも思います。
 法曹人口増加の政策に伴い毎年弁護士は増えて行っていますが、業界に入った後も、業界の後継者として自分たちで責任を持って育成することができるのか、ということは問われなければなりません。法曹養成のプロセスというのは、大学院での講義に限られるものではないからです。
 本日お越しいただいている先生方は皆さん立派ですから、会務を通じて、あるいは直接勤務弁護士を雇用するなどして、後輩の育成に積極的に取り組んでいると思います。私も札幌で修習をしておりましたから、ここにいる多くの先生方には少なからずお世話になりました。しかし、業界全体を見渡した場合にそのような気風が維持されているか、というと、後退したと言わざるを得ない現象もしばしば観測されます。もちろん、制度を支える人を大事にしなかったという点において司法修習の貸与制は最悪な制度だったのですが、修習を経て仕事に就いた後も、長時間労働、パワハラ、セクハラ、等々の問題に苛まれる若手も少なくないようにも聞こえてきます。こうしたことも法曹人口増加の弊害でしょう。その流れの行き着く先はどこかといえば、加入が強制される割には会員を大事にしてくれない、それならそれぞれ勝手に生きていくだけだ、ということになって、日弁連及び弁護士会への会員の帰属感の喪失ということにつながっていきます。
 だからこそ、司法を強くするには頭数を増やせばいいのだ、ということにもならないわけです。自分たちが責任を持って育てられる後進の範囲はどの程度なのか、ということを考えつつ、新たな志願者を迎え入れ、そして育てていく必要があります。法曹人口の問題はそのような観点から考えていくべきです。

 もともと、法曹養成制度の改革は、司法試験合格者を増やそうとした場合に司法研修所のキャパシティを越えてしまうから、それに代わる養成機関が必要だということに端を発していたのではないかと思います。
 しかし近年の司法試験合格者は1500人前後です。昨年は在学中受験者が入った関係で多少増えましたけれども。
 これは旧司法試験末期の時代と同じか少ないかという水準ですから、研修所のキャパシティの問題は生じないことになります。そのような状況であるからこそ、法科大学院を中核とした法曹養成制度に積極的な意義が必ずしも見出し難い状況になっていないのかということは、法曹志願者数を維持し、かつ、その能力を担保する観点からも、日弁連としてタブーなく議論をしていくべき時期に来ているのではないかと思います。

 次に、法テラスのことについて考えてみます。
法テラス、とりわけ民事法律扶助の一番の問題は法律扶助協会時代の基準を踏襲していることがもはや時代に合わないことにあります。経済の原理に照らして考えれば、価格が低いままなので、供給が制約されるのは当たり前のことです。実際、代理援助に関していえば、平成22年以降はほぼ横ばいとなり、令和の時代に入るとむしろ件数が減少に転じてすらいます。
 スタッフ弁護士は置かず原則ジュディケアで対処を行うという方針の弁護士会もあります。あるいはそもそもスタッフ弁護士がいない所では扶助事件は必然的にジュディケアでの対応となります。自分たちの力で法律扶助制度を維持しようという気概は良いことですが、その場合、現行の法テラスの報酬体系で事務所が維持できるのか、ということを真剣に考える必要が生じざるを得ません。
 もちろん、法律扶助協会の時代であれば大きく問題はなかったかもしれません。業務基盤が確立された先生方がプロボノとして扶助を担うという前提があったからです。
 しかし、今では前提が異なっております。法曹人口の急激な増加は、弁護士の業務基盤の確立に困難をもたらすことになりました。特に影響を受けるのは相対的に業務基盤が弱い立場の若手です。一時しのぎで扶助事件をやるというのでは長続きしません。そういった問題を制度的に改善していくことが大事なことです。報酬の問題と手続の問題と、多方面から改善を図って世間に提供されるリーガルサービスの総量を増やす、ということが大切なことではないかと思います。」
(続く)

pagetop